「相思相愛」

愛せない愛されたい


 砕ける風の音が頭蓋を叩く。無情な衣擦れの音と、中に混じるひそやかな声に耳を欹てる。こんなに近いのに、近しい音は全て遠く。逆に遠くが近く聞こえる始末。手に負えない、逃避らしい。融解するいくつかの音。聞き取れない小さな嘆き。無数の這いずる鬼が笑う。莫迦な二人を見て笑う。
 この手はまるで意思を持ったように勝手に動いて柔らかな身体を嬲り濡らす。摩り込まれる熱に従順な彼の目が細められ、請われるまま舌を差し出す。焦らしているつもりが気付けば焦らされている。壊れる? ちぎれる? 崩れる? 砕ける? なんでもいい。理性は既に食ってしまった。

 雨風が弱まるに連れ響く乱れた呼吸は酷くなる。雨が一生止まなければいいのにと考えながら汗ばんだ喉元を歯でやわく食む。足を投げ出し爪先まで強張らせ、震えながら弱音を吐く動物は、覚束ない手を蒲団の上に彷徨わせた。その姿をただ上からぼんやりと眺める。指先のやたら扇情的な動きに胸が裂けそうになる。止められない。熱い、熱くて、気が狂いそう。酷くしたい、酷く苛み、酷く乱してしまいたい。この燻る劣情を受け止められるのは。止めろと言わない、拒みもしない、抱かれて善がって啜り泣く、君しかいない。愛しくて歯痒い。


 抱かれても愛してくれはしない君を愛したくない僕が呟いた一言に顔を歪めた君。
 こんなに抱いておきながら愛したくないなんて滑稽だと僕を笑った、誰も愛せない君。
 その寂しそうな目を忘れない。