「カルト」

 綺麗な断面で擦り切れていく二人のこころを近づけられない。

 真夏が終わらないうちは優しい夢など緩やかな憂鬱でも押し寄せない限り、見れる筈もない。


 頭痛がするから目を伏せた。言いようのない苛立ちに包まれた部屋が生温い湿度を保ち、黒ずんでいく窓の外に感化されるようにして何かしらのひずみが生まれた。目に見えて正常じゃない。けれど異常と言うにはまだ、まだ、正気なままの二人だった。だから線が引けない。曖昧な二人の間にまどろむ如何ともし難い狂気がひたひた踏鞴を踏んでいる。追い払えるなら苦労しない。追い払えば、あちらへ行く、俺でない、あちらへ。だから俺もあいつも斯うしてこのまま追い払えもせず、手を伸ばすこともできず、唾液を飲み込む音も押し殺して耐えている。
 何を望んでも受け入れよう。できるなら望まれたいからだ。

「起きないで」

 尋ねても届くことは無い。
 おかしくなっていくアナタを見ていながらおかしくなっていく自分に見惚れている、嘘吐きが浸るには優しすぎるマーブル模様の海。息をしたい。喉に気管に肺に胸に雪崩れ込む冷たい水が全身をふやかして意識を途切れさせてくれるまであと幾つ夜を縫えばいいだろう。繋ぎ合わせて見てみぬふりをする傷。そうやって生きていく。人間ならば。アナタと一緒に全部やめてしまいたい。ああ、朝だ、落ちる、熱。首に回る腕の重みを捨てる。全て無かったことにできる色を連れてくる朝が嫌い。