憧憬と嫌悪の共犯

 太陽が欠けていくのを屋上で見た。月が光を覆うその様が、侵食を許すその姿が、この目にはとてもいやらしく映った。

「お前みたい」

 徐々に暗くなってゆく太陽を見上げながら松本が言った。高嶋は同じようにじっと太陽を見つめながら聞こえなかったふりをした。

「俺に覆われていくお前、なんてな」

 含んだ笑みで高嶋を見るから、唆されるように膝を抱いている松本の腕を掴んだ。顔を近づけて唇を重ねる。すぐに離れて見たそれは、満足げにいやらしい弧を描いた。

「……逆だよ」

 ぽつ、と呟けば、え、と無表情に戻った松本の、その表情を可愛いと思いながらもう一度引き寄せ、唇を重ねる。離れ際に見たそれは、今度は不満げに歪んでいた。嗚呼そんな顔で俺を見ないで。

「……今すぐ犯しちゃいたい」

 そう言うと呆れた顔をされる。
 鼻で笑いながら顔を突っぱねられて高嶋は少しだけ安堵する。また空を仰いだら、かなり侵食は進んでいた。

(やっぱり、逆だ)

 あれは流鬼が俺に覆われていく様子だ。綺麗な光が真っ黒な影で見えなくなる。身体を重ねる毎に少しずつ、お前を汚す俺。高嶋はそう考えながら太陽と月の重なり合う様を嫌悪を込めて見つめた。

「あれだな、こんな日に屋上で二人して変だな」

「ん? どうして」

「別にロマンティックでもなんでもないじゃん」

「まあね」

「でも、なんか、イヤらしくない?」

 松本の言葉に目を丸くする。にやにや笑っているその顔で、見透かされた気分になった。すっかり夕方みたいに暗くなった周囲を気にすることもなく、ロマンティックでもなんでもない真昼の空の下で、目線を交しながら指を絡めて手を握った。松本は最後まで拒む術を未だ持っていなかった。けれどそれなら、覚えなければいいとさえ思っていた。そんな松本に少なからず抱く焦りと不安が悟られないようにと高嶋はただ従順なさまを装った。
 高嶋はわかっていた。松本が自分の歪んだ思いを知っていることなど。知っていて、気付かぬふりをしていて、ただ汚れていく自分を高嶋のせいにして。高嶋がそれを分かっていてやめられないことも、ぜんぶ、ぜんぶ、わかっていて。
 それでも二人は口にしない。このまま純粋なふりをしていれば、密事は誰にも何にも阻まれること無く続いて行く気がして。
 あの太陽と月のように、公然と身体を重ね合える関係なんて有り得はしないのに。