穏やかに過ぎる秒刻みの一日

 事務所の会議室で誰かが置いてったらしい近頃のファッション雑誌をペラペラ捲りながら麗が、この娘どうしてこんなに睫毛がたくさんあるの、と不思議そうに首をかしげるので、俺は知らないと答える代わりに小さく肩を竦めた。

「みんな髪型が同じなのはこの雑誌が髪型はこれしか認めないって決めているからなの?」

「そうなんじゃない」

 麗の素朴な疑問などはどうでもいいので尋ねられる度に適当に流してしまって、静かに紅茶を啜りながら携帯電話を弄くり回していた。そうしたら麗は何か発見して、マジか、と驚きの声を上げた。それにつられて雑誌を覗き込んでみた。それは読者投票の結果発表ページ、第一位のモデルが可愛らしく微笑んでポーズをとっていた。俺から見ても可愛らしいなと思うような、けばけばしいわけでもなく素朴な、しかしあか抜けた印象を与えるモデルだった。

「うーん俺はどうもこういう顔は好きじゃないなぁ」

「ああそう」

「俺はもっとこう、流鬼みたいな顔のほうが好き」

 俺はちょっと目を見開いてしまったけれど、すぐに表情を元に戻すことに成功した。それからちょっと笑って、目の前の最低な男に最高の言葉をあげたんだ。

「麗さんて趣味が良いのね」

 ちょうどその時扉を開けた葵さんが、何も言わずに扉を閉めた。